Limiter(Maximizer)はマスタリングの決め手となる重要なエフェクターです。音圧を上げる為には必ず必要ですが、他のエフェクタ以上に取扱を慎重に行わないと原曲を壊してしまいます。そのLimiterの使い方について今回はお話していこうと思います。
Limiterの特徴
Limiterは2mixのピークやダイナミクスを潰すことで音量を上げるエフェクタということは皆さんご存知かと思います。ということはLimiterで音量を上げると2mixだと目立たなかったノイズや不快な帯域も一緒に上がるということです。適切なリミッティングで音量を稼ぐためにも、前段階のEQやコンプレッサーでの丁寧な処理は欠かせません。
各社のLimiter毎にも特徴が存在します。他のエフェクタでも言っていることですが、各エフェクタの特徴を理解して使い分ける事が重要です。
例えば、とにかく音圧を上げたいクラブ系トラックなら「iZotope Ozone Maximizer」や「A.O.M. Invisible Limiter G2」が有名ですね。
原音を壊さずに音圧を上げたいなら「FabFilter Pro-L」がオススメです。
いま紹介したプラグインはどれも優秀で、リミッターの設定項目もたくさんあります。中でもリミティングの種類を変える設定はそのプラグインの性質をガラっと変えるので、マニュアルをしっかり読んでおくことが重要です。例えばOzone MaximizerであればIRC I~IVの4種類が用意されています。Iは歪みにくく、IIは同様に歪みにくいですがIよりクリアな音になります。IIIは前者とはまったく異なりアグレッシブなサウンドになり、歪みやすいです。IVはIIより更にクリアなようなイメージです(ほぼ使ったこと無い)。リミッターの設定項目をあまり弄ったことのない人の話をよく聴くので、マニュアルと合わせて触ってみて下さい。自分の持ってるリミッターの評価がガラっと変わるかもしれません。
どこまで音量を上げるか
Limiterと音圧の問題は切っても切れないかと思います。この問題は非常にシビアであり、エンジニアによって考え方が変わってきます。音圧は出したほうが良いという人もいれば、ダイナミクスが損なわれるため音圧は上げるべきでないという人もいます。
まず大前提として、音が歪んでるかを認識できる必要があります。音が歪んでいるか否かを機械的に判断するツールは残念ながら私の知る限り存在しません。こればかりは自分の耳とモニター環境を信じるしかありません。しかしその境目も非常に曖昧で難しいところでもあります。リミッターを過剰に掛けたりして歪みの感覚を身につけるのが一番だと思います。
音量を上げれば、ダイナミクスは失われのっぺりした音像になります。過度なリミティングは歪みやポンピングを生んでしまいます。実際に過度に音圧を出そうとして音が破錠している市販の曲も存在します。
音量を控えめにすれば、健全なダイナミクスレンジを保ちアタック音を損なうことはありません。しかし音圧がある楽曲の方がいい音に感じます。
音量の一つの目安として、その曲と似たジャンルの曲のリファレンスと合わせて自分のお気に入りのメーターを準備して下さい。リファレンスの音量を一つの基準にして音量を探ってみて下さい。ただ単に「RMS-5db程度で市販のCDレベルと同じです」と言われてもメーターによって指し示す値が変わってくるので何の参考にもなりません。最近だとラウドネスメーターも普及してきているのでそちらを参考にするのもいいかもしれません。
かと言って綺麗なミックス+適切なマスタリングで作られたプロの楽曲と同じ音量レベルまで持っていくと楽曲が破錠することもあるので難しいところです。
正解を出すことはできないですが、この項の結論としてこのように述べておこうと思います。
歪まないことを大前提に、リファレンスとメーターを利用して様々な曲を聞いて自分の基準を作って下さい。
参考までに私の使用している「iZotope Insight」(ラウドネスメーター)というメーターで話をすると…
- Monstercat等のクラブ系リファレンスは音圧が大きいやつで-4.0LUFS辺りまで示す
- 音圧を稼ぎたい場合は「-7~-5LUFS」あたりでリミティング(-5までいくとかなりガッツリ潰れる)
- 音圧をそこまで出したくない場合「-8~-7LUFS」あたりでリミティング
というようなざっくりとしたイメージをもってリミッターを弄っています。楽曲のミキシングや使用するリミッターの種類によって限界値は異なってきますので最終的には必ず自分の耳で判断して調整するようにしてください。
アウトプットの音量(Ceiling)
リミッターには必ずOutput(Ceiling)という設定項目があります。これはリミティングした後にどの音量で出力するかという値です。Ceilingは直訳で天井という意味です。
音量を0.1dbあげたい気持ちはわかりますが、この値を0dbのまま出力することは望ましくありません。様々な理由がありますが、主に音声ファイルを変換する際や、アナログ機器を通した際にクリッピングが発生してしまう恐れがあるためです。ごく僅かなの音量を稼ぎたいがためにクリッピングを起こしてしまっては元も子もありません。
-0.3dbFSあたりに設定しておけば大半の想定外のクリッピングは回避されるでしょう。
Dither
マスタリング用のリミッターにはDitherという項目があります。これは微量のノイズを出力することにより、ビットレート変換による劣化を和らげるというものです。つまりなんとなく設定するとノイズが出るだけになります。昔は私も数字が多いほうがええやろと何の意味も考えずに24bitを設定していたこともありました。なのでDitherについて少し説明します。
使い方は難しくありません。CDへの納品の場合は、規格が決められているためDitherを16bitに設定した上で、DAWからエクスポートする際に16bitで出力します。24bitで出力したいならばDitherとDAWで24bitを選択すれば良いです。
注意しなければならないのは、DAWの標準機能でDitherがある事があるので、Limiterで設定した場合は必要ありません。逆を言うとLimiterで設定しない場合は、DAWで設定すればOKです。
余談ですが、マスタリングでなくミキシングでリミッターを使用する場合はDitherを掛けないように注意して下さい。
ディザーは、オーディオファイルに対し一回以上適用するべきではありません。レンダリングされたファイルにさらに処理を行う予定の場合、この段階でのディザーの必要性を回避するため、32 ビットにレンダリングするのが最善です。(Ableton Live User Manual)
さいごに
音圧に関してはなかなか言及が難しいため、あやふや内容になってしまったかと思います。ただリミッターを音圧を稼ぐためだけに使っていた人には、今回の記事で新しく知ってもらえたこともあるかと思います。
何かといろんな論争がおこる原因となるエフェクタですが、用法用量を守って正しくお使い下さい。