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Tonnetzと反転した調性の世界

 

音楽を視覚的に分析するためのツールとして、日本ではあまり知られていないTonnetz(トネッツ)を紹介します。Tonnetzには様々な応用方法がありますが、今回は調性を反転する手法であるNegative Harmonyのしくみを可視化してみましょう!

(トップ画像の黄色枠は寄稿による記事となっております。)

 

Tonnetzのしくみ

まずは五度圏

皆さんは五度圏(Circle of 5th)を知っていますか?作曲をしている人なら一度は見たことがある、これです。

五度圏は隣り合った音が完全5度の関係になるように12音をぐるりと一周する構造になっています。

五度圏を使うと、単音と単音の関係性を可視化することができます。裏ドミナントの導出などで使っている人も多いんじゃないでしょうか。

今回紹介するTonnetzはこの五度圏を二次元的に拡張して、和音と和音の関係性を可視化できるようにしたものです。

五度圏からTonnetzを作る

それでは五度圏からTonnetzを作っていきましょう!

まず、五度圏の円を切って直線上に並べます。便宜上これを五度線と呼ぶことにします。

 

続いて、各音について次の関係になるように複数の五度線を上下に並べます。

これでTonnetzの完成です!それではTonnetzの構造を見ていきましょう!

Tonnetzの構造

まず、Cメジャーコード(ド,ミ,ソ)とCマイナーコード(ド,ミ♭,ソ)に色を付けてみました。何が見えてくるでしょうか?

黄色い△がCメジャーコード、青い▽がCマイナーコードです。Tonnetz上ではメジャーコードとマイナーコードは縦方向に線対称の関係になっていますね。

Tonnetz上には12音をルートに持った全てのメジャーコードとマイナーコードが三角形として現れます。

次にスケール(音階)をTonnetz上で見ていきましょう。

Cメジャースケール(ド,レ,ミ,ファ,ソ,ラ,シ)とCマイナースケール(ド,レ,ミ♭,ファ,ソ,ラ♭,シ♭)に色を付けます。

コードの場合と同様にメジャースケールとマイナースケールは縦方向に線対称の関係になりましたね。

このようにメジャーとマイナーが縦に対になる構造がTonnetzの基本コンセプトなのです!

Negative Harmony

さて、Tonnetzについてのお話は一旦お休みして、次はNegative Harmonyという手法について説明しようと思います。

Negative Harmonyはある和音に対して調性の長短やキーセンター(調の中心)への重力を反転させた和音を作り出す手法です。

Jacob Collierによる紹介

このNegative Harmonyは古くからある考え方ですが、Jacob Collier(とても音楽が上手くてすごいアーティスト)が紹介したことをきっかけに一時期話題になっていました。

音楽理論オタクの方は知っている方が多いのではないでしょうか。

Jacob Collierによる説明の動画はこちらです。

ざっくり要約すると、CメジャーキーとCマイナーキーについて反転軸が五度圏のCとGの間にあって、その軸を境に和音の構成音を入れ替えると、調性の長短(CメジャーとCマイナー)とキーセンター(この場合はCのキー)への重力が反転した和音が得られるというものです。

調性の長短が入れ替わるというのはイメージしやすいと思います。端的に言えばメジャースケールのダイアトニックコードがマイナースケールのダイアトニックコードに変わるようなものですね。

難しいのはキーセンターへの重力についてです。動画(0:20~)でも説明されていますがこれはⅣからⅠへ向かう方向と、ⅤからⅠへ向かう方向の対称的な2方向を指しています。

例えばCメジャーキーのとき、ⅣはF、ⅤはGですね。このときF(ファ, ラ, ド)はファがミへ沈んでいく下方向への重力を、G(ソ, シ, レ)はシがドへ昇っていく上方向の重力を持っています。これがキーセンターへの重力で、12音全てに少なからずその指向性が備わっています。Negative Harmonyではこの指向性も反転させます。

少しややこしい説明になってしまいましたが、Negative Harmonyについて雰囲気が伝わったでしょうか。

五度圏を使った説明

さて、Negative Harmonyはどのように和音を変換するのでしょうか?

Jacob CollierはNegative Harmonyを五度圏を使って説明していますので、まずは五度圏で表現してみましょう。

五度圏のCとGの間にまっすぐ反転軸を引きます。今回は例としてG7のNegative Harmonyを作ってみます。G7の構成音は(ソ, シ, レ, ファ)ですね。

それぞれの音について、反転軸を境に対称な位置にある音に入れ替えます。ソはドに、シはラ♭に、レはファに、そしてファはレに入れ替わります。

結果としてG7のNegative HarmonyとしてFm6という和音が得られました。※

五度圏の上で見ていると対応関係がややこしいですよね。これは最初に説明した通り、五度圏は単音と単音の関係性を可視化するツールなので、和音と和音の関係性を可視化することには向いていないからなんです。そこで登場するのがTonnetzです!

※Negative Harmonyでは構成音だけを検討しているのでDm7-5と捉えても良いです。

Tonnetzを使った説明

五度圏と対応関係があるTonnetzでもNegative Harmonyは説明できるはずです。

さらに、五度圏だけを見ていても分からなかった、CとGの間に反転軸を設ける理由や、調性の長短やキーセンターへの重力が反転する理由についても一気に解き明かしてしまいましょう!

Tonnetzの説明の中で、メジャースケールとマイナースケールの台形が対称に現れると説明しました。

このメジャースケールとマイナースケールの台形の真ん中にはそれぞれの主和音(Ⅰ, Ⅰm)があります。そしてその左右には下属和音(Ⅳ, Ⅳm)と属和音(Ⅴ, Ⅴm)がありますね。勘の良い方はもう気づかれたかと思います。そう、キーセンターへの重力はTonnetz上では横の関係なんです!

そして何度も説明した通り、調性の長短はTonnetz上では縦の関係です。

では、この両方を反転させるNegative HarmonyはTonnetz上ではどんな処理になるでしょうか?

横向きの反転+縦向きの反転、つまり点対称(180度回転対称)の変形をすれば良いんです!

ここでCメジャーキーとCマイナーキーを合わせた大きなC調性の枠組み(図中の六角形)を意識すると、点対称の回転軸がその中心に自然と生まれることが分かります。

おっと、 CとGの間に反転軸を設ける理由も分かってしまいましたね!CのキーセンターはCメジャーとCマイナーの中間であるCとGの枝の上にあるんです。

それではTonnetz上での処理も分かったところで、Cのキー上でのG7のNegative Harmonyを導いてみましょう!五度圏を使った結果と本当に一致するのでしょうか?

まずTonnetz上でG7の音をマークします。G、B、D、Fですね。

次にCキーの中心を軸にして点対称な位置の音をマークします。G→C、B→A♭、D→F、F→Dですね。

五度圏の場合と同じくFm6を導くことができました!Fm6はCのキーの含有量がG7と同じでありながら全ての調性(長短とキーセンターへの重力)が反転した和音です。

Tonnetzは五度圏を発展させて和音と和音の関係を可視化できるようにしたものなので、Negative Harmonyの対応関係も五度圏以上に見やすくなりましたね。

このようにして導いたNegative Harmonyはとても不思議な進行感を与えます。皆さんはリハーモナイズの過程で一部のコードだけをNegative Harmonyにしても良いですし、進行全部を反転して反転した世界の音楽に挑戦しても良いかもしれません。

それでは、最も安定した進行として知られているDm7 – G7 – Cという251の進行をNegative Harmonyにして解説を終わりましょう。言うならば反転世界のツーファイブワンです。

Dm7 – G7 – C

Gm7 – Fm6 – Cm(Negative Harmony)

さいごに

反転した調性の世界に一歩踏み出せたでしょうか。

最後にTonnetzで和音を可視化しながら音を鳴らせるサイトを紹介します。

https://cifkao.github.io/tonnetz-viz/

midi鍵盤でも鳴らせますし、PCのキーボードでも鳴らせます。今回説明した向きとは上下が反転したTonnetzですが、中身は同じものです。

Negative Harmonyは実に数理的な処理で導けるものですが、Jacob Collierもインタビューで話しているように、Negative Harmonyを使うことでどんな感情が乗るのかを意識して使うことが大切です。

ぜひTonnetz上で実際に音を鳴らしてみて、新しい知識を感覚に昇華していきましょう!!

 

書いた人

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