マスタリングのSaturator(Exciter)

マスタリングのSaturator(Exciter)

マスタリングにおいて「きらびやかさ」や「温かさ」といった要素を加えたいならば、Saturator(サチュレータ)やExciter(エキサイタ)といったエフェクタが最適です。通常はミキシングで使用することが多いエフェクタであり、マスタリングでは使用しないというエンジニアの方も多いですが、2mixの質感を変えるエフェクタとしてはこれ以上ないと思っております。そのSaturator/Exciterのマスタリングでの使用についてお話していきます。

Saturator(サチュレータ)とは

Saturatorとは僅かな歪みを加えることで新たにハーモニクスを生成し、音楽的なきらびやかさや温かさを付与します。EQで同様の効果を得ようとブーストしても既存の周波数をブーストするだけなので、Saturatorでハーモニクスを付与した音とはまったく異なります。

主に偶数ハーモニクスを付与するもの(例:真空管サチュレーション)と、奇数ハーモニクスを付与する(例:テープサチュレーション)等があります。エフェクタの種類にも様々ありますが、偶数ハーモニクスはより音楽的な温かさを付与しますが、奇数ハーモニクスはオクターブ以外の音を含むためよりアグレッシブなサウンドになる傾向にあります。

 

Saturatorの効果を見てみよう

サチュレーターの効果を見ることは簡単です。シンセサイザーでサイン波を鳴らしそこにSaturatorを噛ましてアナライザーで変化を見るだけです。

サイン波は倍音が発生しないため下画像のような周波数特性になります。440Hzだけ山ができています。

サイン波

次に偶数ハーモニクスを付与するiZotopeのExciterのWarmモードを使ってみた結果が下です。440Hzに加えて、880Hzと1760Hzにも山ができていることがわかります。

偶数ハーモニクス

次に奇数ハーモニクスを付与するiZotopeのExciterのTapeモードを使ってみた結果が下です。440Hzに加えて、1320Hz、2020Hz、それ以降7倍、9倍のところに山ができていることがわかります。

奇数ハーモニクス

紹介したものはシンプルなものでしたが、中にはとてもアグレッシブなサウンドになるSaturatorもあります。これはiZotopeのExciterのTriodeモードです。

なんかすげえ

自分の求めているサウンドを的確に出すためにも、自分の持っているサチュレーターの特性を一度目で確認してみては如何でしょう?

ちなみにiZotopeのマニュアルを見るとこのように書いてあります。マニュアルと画像で特性が一致してることが分かると思います。

  • WARM: ウォームモードは速く衰退する偶数ハーモニクスのみを生成します。
  • RETRO: レトロモードはトランジスタの特性を基にしており、緩やかに衰退する奇数ハーモニクスを生成します。
  • TAPE: テープモードは明るい音色が特徴です。これはアナログテープのサチュレーションで見られる奇数ハーモニクスに起因します。
  • TUBE: チューブモードは、ダイナミックまたはトランジエントのアタックを強調するクリアなトーン的励起が特徴です。
  • TRIODE: 三極真空管モードはリアルなアナログの温かみを再現すべく、真空管回路を正確にモデリングしたモードです。このモードではデュアル三極真空管モードの半分の真空管回路を使用しているため、微妙なオーバードライブが実現します。
  • DUAL TRIODE: デュアル三極真空管モードは真空管回路をフルに使用しており、温かい音色で顕著なオーバードライブを発生させます。

(iZotope Ozone8 Manual)

 

マスタリングでの使用

マスタリングでSaturatorを使用する場合はシングルバンドで使用しても良いですが、マルチバンドでの使用も効果的です。

きらびやかなサウンドを求めている場合は、マルチバンドで上の方の帯域にテープサチュレーションを掛けてみてください。

中域に厚みを持たせたい場合は、マルチバンドで中域に真空管サチュレーションをかけてみてください。

低域にはあまり使いませんが、使用すると濁らせたようなすこし厚みのあるサウンドになります。

サチュレーターによってはシングルバンドで使ったほうが望ましいものもあります。

では実際に上記の例を適用したサウンドを聞いてみて下さい。(比較のため強めにサチュレーションをしています。本来はもう少しマイルドに掛けます。)

■オリジナル

 

■高域テープ

 

■中域真空管

 

■低域テープ

 

違いがわかりましたか?

毎回言っていますが、使用するエフェクタの特性を捉えることが一番です。自分の所持しているサチュレーターの特性を理解して、上に書いてある以外の使用方法を是非見つけてみて下さい。

マルチバンドについてはこちらの記事も参照してください。

Ableton Live Tips 003 マルチバンドエフェクタを自作しよう

 

使用時の注意点

Saturatorはついつい掛けすぎてしまうエフェクタNo1といっても過言ではありません。僅かに掛ければ他のエフェクトでは得られない素晴らしい効果を得られますが、掛けすぎると音像が壊れ意図した音とは逆効果になってしまうことが多々あります。

耳障りなノイズが発生するまでサチュレーションの量をあげてから、下げていくという方法でパラメータを設定すると掛けすぎ問題は起こりにくいと言えるでしょう。

曲調によってはSaturatorを用いたマスタリングが適さないことも多くあります。ジャンルで言うとジャズやオーケストラは代表例です。曲調によっても十分サウンドが飽和していてSaturatorでハーモニクスを付与する必要がない楽曲も多々あります。Saturatorの使用可否はSaturatorを使う上で最も重要な判断事項であるといっても差し支えないでしょう。

 

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